2011年11月19日土曜日

『映画秘宝』ゴア・ヴィダルインタビュー


 このインタビューは6月30日に行われ、『映画秘宝』10月号(8月20日発売)に掲載されたものを加筆・修正し、転載したものである。『映画秘宝』松崎編集長了承済み。雑誌の性質上、インタビューは映画に関することに終始している。


――あなたは『マイラ』について「物語の半分に辿り着くまで彼女が性転換した映画評論家であることを知らなかった。マイロンはマイラになったのだ。何故だろう? わたしは笑いながら書き続けた」と回想録で書いています。書き終わるまでにどれくらいかかりました?
ヴィダル 書くのには3000年かかったよ。その間ずっと私は女だった(笑)。
――マイラが小説内で語る、男を去勢し、人口を抑制するという思想はあなた自身の思想と思っていいのですか? 実際、『マイラ』の続編『マイロン』では全ての男が去勢されます。
ヴィダル 黙示録的思想だな。世界の終末だ。あれはジョークだよ。
――日本では最近、映画『マイラ ―むかし、マイラは男だった――』のDVDが発売されました。あなたは「1度も観たことがない」と公言していますが、監督のマイケル・サーンの演出が気に入らなかったのですか?
ヴィダル マイケル・サーンを映画監督だと思っているのは日本人くらいだ。あいつは愚かで馬鹿で何の才能もない。彼は『マイラ』で映画を撮りたかったんだ。アメリカで、いや世界で、小説として最もホットな本だったからだ。流行るとわかっていたからだよ。
――それでは『マイラ ――むかし、マイラは男だった――』を観ていないのですか?
ヴィダル 観ていない! 地獄を見たかと訊くようなものだ。地獄がどんなものか見る必要はない。マイケル・サーンなんてどうでもいい男だよ。
――日本では今、トランスジェンダーや性同一性障害の芸能人が脚光を浴びています。そのうえ、若い男の子の間で女装が流行っているんです。「男の娘」という言葉まで生まれました。
ヴィダル 私は日本の若い男の子にもアメリカの若い男の子にも興味はない。若い男の子自体に興味がないんだ。
――例えば、彼女は性同一性障害の芸能人です。
ヴィダル (椿姫彩菜の写真を見ながら興味がなさそうに)だからどうした?
――彼女もそうですよ。
ヴィダル (最近出版された佐藤かよのフォトエッセイ『Re-born』を見て驚きながら)彼女もそうなのか!? そんな感じはまったくしないな! マイラは確かに性別を変える度に手術を受けて、女になったり、男になったりしたが、「性転換はどういうものですか?」なんて私に訊かないでくれ。私にはわからない。この前、ジェーン・フォンダのパーティに行ったんだが、そこにいた連中みんなが性同一性障害や異性装者だったんだ。とても変な感じがしたよ。彼らは自分達を「犠牲者」だと思っていた。アメリカ人は自分達が「犠牲者」になるようにデザインされているんだ。
――1955年、あなたはテレビの脚本に携わるようになりました。それまでテレビを持っておらず、テレビを買って来て、30分のテレビドラマを1本観ただけで脚本を書き始めた、という伝説は本当ですか? テレビの脚本を書くのはそんなに簡単なことなのでしょうか?
ヴィダル それが本当なら私は1年後にはテレビの王者になっていただろうね(笑)。毎週、私はテレビ脚本を書いたよ。テレビドラマなんてまったく見ていない。馬鹿な小説を自分の小説を書く前に読まないのと同じことだ。悪影響を受けるからね。
――ブロードウェイで大ヒットした演劇『ある小惑星への訪問』は「イカレた宇宙人が南北戦争時代と間違えて現代にやって来て、好奇心から戦争を起こそうとする」という素晴らしく諷刺の効いた作品ですが、映画化された『底抜け宇宙旅行』は妙な出来になってしまいました。
ヴィダル 主演のジェリー・ルイスは最低のコメディアンだ。彼が主演するなんてまったく聞かされていなかった。だから、観てもいないし、これからも観る気はない。今年演劇の方がリバイバルされる。3度目だよ。
――あなたは議員に立候補した経験を生かし、The Best Manを書き上げ、ブロードウェイで大ヒットさせました。ヘンリー・フォンダ主演でThe Best Man(日本未公開)は映画化され、あなたは原作だけではなく、脚本も担当しました。この作品があなたの手掛けた映画作品の中で最も満足出来たものではないのですか?
ヴィダル アメリカで一番経済的に成功しているから、私がどう思おうと関係なく、みんなが一番だと言うね。来年、演劇の方が大統領選挙に合わせてリバイバルされる。5度目だ。しかし、演劇や映画やテレビは芸術の形式ではない。工芸品なんだよ。ヘンリー・ジェイムズは「シアターはアートではない。シアターはシークレットだ」と言った。私はそのシークレットをマスターしたんだ。アートとしてはどうでもよかった。
――映画『セルロイド・クローゼット』で『ベン・ハー』の脚本書き換えにあたって、ベン・ハーとメッサーラが抱き合うシーンを挿入し、二人が同性愛関係にあることを暗示させた、と語っていらっしゃいます。
ヴィダル それ以外になんて言えばいいんだ? 抱き合って恋に落ちているわけだろう? 映画を観た人間でセックスが何かわかっていたら、あれが何かわかっていたはずだ。ハリウッドを牛耳っているユダヤ人どもは「あれはただ仲が良いだけだ」とほざいているが、私は金のために主義を曲げたりはしない。
――どうしてあなたは脚本にクレジットされなかったのでしょう? 
ヴィダル スクリーン・ライターズ・ギルドというのは酷いところで、スラム街へ行って適当な人間を連れて来た方がこの組合にいるライターよりはマシだ。ローマで脚本を書いてハリウッドのプロデューサーに郵送したら、その時ハリウッドにいたライターが盗んだんだ。泥棒だ。泥棒だ! 泥棒だ!! 泥棒だ!!! 泥棒だ!!!! そいつは私の脚本を手に入れて、自分の手でコピーしたんだ。良い脚本はよく盗まれる。犯罪者の集団であるスクリーン・ライターズ・ギルドはそいつにクレジットをあげてしまった。カリフォルニアの最高裁判所に行って告訴してやったよ。もちろん、私は勝った。
――あなたは『去年の夏 突然に』の脚本を書きましたが、テネシー・ウィリアムズの原作のままだったのでしょうか?
ヴィダル 大体そうだ。キャサリン・ヘップバーンの演技は素晴らしかった。ゲイのセバスチャンが少年を引っかけるためにヘップバーン演じる母親をポン引きとして使っていた。ところが、「去年の夏、突然に」母親はもう若くなくなってしまった。そこでエリザベス・テイラーが演じる従妹が若者を引っかける餌になるわけだ。最終的にはセバスチャンは食い物にしていた少年達に文字通り食われてしまうわけだが。カニバリズムだ。テネシーはやり過ぎだったよ。検閲は受けなかった。1シーン、取り除かれそうになった部分はあった。「神は背徳的だ」と言う台詞だ。私が書いたものだ。それが問題になっただけだ。
――『パリは燃えているか』のフランシス・フォード・コッポラとの共同作業はどうでした? 
ヴィダル あいつは私のアシスタントだった。とても無名だった。
――彼は脚本を書くのがかなり早かったようですが。
ヴィダル どんなに早かろうと関係ないね。ヘタクソだったら意味がない。私は彼のファンではない。子供みたいなやつだと思ったよ。重要なことは何一つしていない。
――監督としてのフランシス・フォード・コッポラをどう思います?
ヴィダル どうでもいいね。あいつは書くことも、映画を撮ることも、演技指導さえもデタラメなんだ。ハリウッドにはデタラメなやつが100万人ほどいるよ。
――あなたは『カリギュラ』の脚本を書きましたが、「あれはジョーク・ムーヴィーだ」と語っています。
ヴィダル ボブ・グッチョーネとティント・ブラス。あいつらが映画を撮りたいと言ったんだ。それが悪夢の始まりだった。ポルノグラフィを撮る連中さ。
――スタジオでは何があったのでしょう? 真相を語って下さいますか。
ヴィダル みんなが金を盗もうとしていたよ。このことについて書かれた本がある。もうすぐ出版されるから読むといい。インド人が書いた本なんだが、タイトルは『カリギュラ』だ。金についての本だ。とにかくスタッフはどれだけ金を盗むか考えているだけだった。これに尽きる。私は犯罪には興味がないし、犯罪にまつわる話にも興味はない。だから、『カリギュラ』についてコメントすることに興味がない。
――『カリギュラ』のオリジナルの脚本は現存していますか?
ヴィダル あるよ。スエトニウスが『ローマ皇帝伝』で書いたカリギュラの生涯に忠実な脚本だ。ハーバード大学にある。私に関する全ての文書はハーバードに保管されている。
――2005年にTrailer for a Remake of Gore Vidal's Caligulaという短いジョーク・フィルムを作り、自ら出演なさっています。ヘレン・ミレンやミラ・ジョヴォヴィッチ、そしてカリギュラをコートニー・ラヴが演じるという豪華キャストによる奇想天外な短編映画ですが。
ヴィダル 良いジョークだろう。わかるかい? ハリウッドは私に長い間、本当に良い思いをさせてもらったはずなんだ。連中は私から題材を盗むんだ。やつらは書けない。やっと読めるくらいなんだ。だから、いつも私から盗もうとする。幸いなことにアメリカ人にはまったくユーモアのセンスがない。彼らは何がジョークかわかっていない。何故なら、大抵は彼ら自身がジョークだからさ。
――ミック・ジャガーは『大予言者カルキ』を自分の主演で映画化することを熱望し、製作に取り掛かりましたが、実現しませんでした。その時のエピソードを訊かせていただけますか?
ヴィダル ミック・ジャガーはカルキにうってつけだったと思うよ。何故、実現しなかったかは私の知るところではない。
――あなたは『大予言者カルキ』の映画化権を売却しています。近い将来、『大予言者カルキ』が映画化されることは有り得るのでしょうか?
ヴィダル 映画化されないことを望むね。これ以上スクリーンにクソを載せたくないだろう?
――あなたはフェデリコ・フェリーニと親しく、彼はあなたをゴリーノと呼んでいたそうですが。
ヴィダル そうだ。私は彼をフレッドと呼んでいた。
――『フェリーニのローマ』に出演した際のエピソードを教えて下さい。映画の中で終末論を語っていますが。
ヴィダル あれはフレッドが書いた台詞じゃないんだ。私がフレッドにあげた台詞なんだ。私が言った台詞は全て私によって書かれたものだよ。ところで『ガタカ』は観たかい?
――とても良い演技でしたね。
ヴィダル どうもありがとう。脚本が良かったんだ。
――あなたは1990年代に『ボブ★ロバーツ』、『きっと忘れない』、『ガタカ』と立て続けに俳優として出演なさいました。何故、突如、映画俳優としてどの映画でも重要な役回りを演じる気になったのでしょうか?
ヴィダル 金のためだね(笑)。
――特に『ガタカ』は日本でも評価が高く、私も大好きな映画です。
ヴィダル そりゃ良かった。
――『ガタカ』で殺人犯の役を演じていますね。
ヴィダル そうだよ。ほっとしたよ。いつもは不本意ながら、年寄りの優しい教授みたいな役をやらされるんだ。だから、説得力のある殺人犯だっただろう(笑)
――撮影中、何か面白いエピソードはありましたか?
ヴィダル ない。映画製作で面白いことはまったくない。映画製作が好きな人間にとっては別の話だが。そういう連中はいつも何かを見つけて書くけどね。
――あなたは2000年に出版したThe Golden Ageを最後に、小説を発表していません。最近はエッセイも書いておられません。今何か小説を書いていらっしゃいますか? 私はあなたが米西戦争について小説を書いているとインターネットのニュースで読みました。
ヴィダル そうだ。まだ始めてもいないが、アメリカの帝国主義の始まりと野心について書こうとしている。アメリカのトレードマークとも言うべきもので、それがなかったら世界は破壊されなかっただろう。恐らく最後の小説になる。いつも最後の小説にしようと思っているんだが、そうはいかなくなるんだ。
――普段はご自分の時間をどのように使っていますか?
ヴィダル アメリカを文明国家にするために頑張っているよ。