2011年5月30日月曜日

映画評:ゴア・ヴィダル出演映画『きっと忘れない』


『きっと忘れない』というと「ああ、ZARDの歌の」と反応されることが多いが、そうじゃねえよ、そういう邦題のアメリカ映画があるんだよおおお、ということで、今回紹介するのはゴア・ヴィダルの俳優としての出演作品『きっと忘れない』(原題:With Honors)。ヴィダルの俳優デビューは1945年(一説には1946年)、アナイス・ニンと出演した白黒のサイレント映画Ritual in transfigured timeにまで遡る。
 20歳の若きヴィダルの出演シーンは6:04から。興味のある方はご覧になって下さい。以後、ヴィダルは彼自身の役やエキストラのようなカメオ出演も含め、続々と映画出演を繰り返していくが、1992年の『ボブ★ロバーツ』まで本格的な映画出演は見送られた。
 ヴィダル自身が映画マニアで映画脚本執筆は決して金に困ったからだけではないことは、海外のヴィダル・ファンや主人公が映画オタクでもある彼の代表作『マイラ』の読者ならわかると思うが、実際にヴィダル自身、クラシックなミュージカル映画を偏愛し、ハーバード大学での映画についての講義をまとめたScreening Historyを出版している。俳優としての映画出演は飽くまで余技だが、そこには決して遊びだけではない、真摯さが感じられることもまた事実だ。ヴィダルが映画出演のチャンスを虎視眈々と狙っていたことを知っていた彼の生涯に渡るライバル、トルーマン・カポーティは『名探偵登場』で主役級の役を射止めた時、「ヴィダルのやつびっくりするぞ!」と快哉を上げた。
 ヴィダルの俳優としての演技の質に言及すると、残念ながら可もなく不可もなく、と言ったところだ。手堅い演技で与えられた役をしっかりこなすという、スキャンダラスな彼の経歴には似つかわしくない――失礼――老練さを発揮している。ただ、ヴィダル自身、大層なイケメン――アナイス・ニンやマーティン・エイミスはその容姿を絶賛している――なため、ヴィダルが重要な役回りをこなしている映画を観ることは美老年フェチにとってはたまらない快感であることも確かだ。
 さて、『きっと忘れない』だが、悲しいことに、ジョー・ペシの好演以外、特筆すべき点がある映画ではない。官僚を目指し、卒論の優秀賞を狙うハーバード大学の学生である主人公がジョー・ペシ演ずるホームレスと出会い、徐々にその考えを変えていくというストーリーだが……正直言って、よくある「社会から見下されている種類の人間と出会ったら賢い人だった」的な物語で、それほど感動する話でも笑える話でもない。
『きっと忘れない』のヴィダルの役回りだが、彼は一種の悪役として、主人公の卒論の指導教授として登場する。辛辣で厳格でエリート主義のハーバード大の教授としてのヴィダルはほぼ本人そのもので、ジョー・ペシとの論戦シーンも含め、素敵な美老年っぷりを見せつけており、ゴア・ヴィダル好きには一見の価値がある。
 ただし、ただし……ただそれだけの映画であることをくれぐれも忘れないで欲しい。ジョー・ペシとゴア・ヴィダルのファン、青春ヒューマンドラマ好きの方にのみ観る価値がある映画ではないだろうか。『ボブ★ロバーツ』や『ガタカ』のようにゴア・ヴィダルが重要な役回りを演じ、映画としても堂々とした出来映えである作品とは違う、ということを記して、本稿を終えたいと思う。
(この映画評は削除した私のゴア・ヴィダル・ファンBlog“Homage to Gore Vidal”(FC2)に掲載したものに加筆・修正を加えた)

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